しののめ日記

汐見 彩 のブログ

はじめての執事カフェ①池袋スワロウテイル

 

はじめての執事カフェ①池袋スワロウテイル


腰まである長髪を佐藤蛾次郎スタイルで

ひとつに結わえ礼装に身を包んだ男性。

ライティングボードを手に

観光客と思しき女性3人組の相手をしている。

彼の背後にある本日の予約状況は

すべて満席であった。

 

東京・池袋駅から徒歩10分

執事カフェ スワロウテイル

エントランスに続く階段前の光景である。

 


ひとつに結わえた長髪を

「蛾次郎スタイル」と呼ぶ、

そんな流行りもルールもないが

瞬時にそう浮かんだ。

 

何故だろう。

 

前途の観光客3人のうち

1人だけが日本語を話すと思われ、

蛾次郎スタイルの彼との会話を

残りの2人に通訳する時間が生じていた。

予約5分前に到着した私達は

入り口を塞がれた状態にガッカリだ。

 

なんせ暑いねん…。

 

午前中とは言え

30度を超えんばかりの暑さだった。

黒のロングジャケットに身を包んだ

蛾次郎のあご先からは汗が滴っていた。

締まり切っていない水道の蛇口のように

ポタッ・・・またポタッ・・・

 

きっと私は感じたのだ、

「なんか、つらそう。」

 

男はつらいよ』ならぬ

『ドアマンはつらいよ』

であったのだ。

 

蛾次郎も私達の存在に

気付いているのがわかる。

観光客3人組は滞在中の予約獲得は

叶うことがなかった様子だった。

 

丁寧に頭を下げた蛾次郎に

ようやく地下一階の店内(お屋敷内)

に続く階段へと通される我々…。

蛾次郎じゃなくてドアマン。

階段前のドアも

車のドアもないけどドアマンだ。

 


「お帰りなさいませ、お嬢様」


(失礼なきよう今日はお嬢様になりきる!)

つもりが咄嗟に口を突く、


「ありがとうございます。」


めっちゃ他人行儀。

 

「お久しぶりでございます。」

にも思わず返してしまう、

「あ、はじめてです。」


全然なりきれてないがな。

 

顔色一つ変えず執事は続ける。


「お嬢様が英国に発たれてもう10年、

 久々のご帰宅でいらっしゃいますね。」


嗚呼、プロフェッショナル。

 

 

執事カフェと聞いて浮かんだ執事像は

・イケメン。

・とにかくイケメン。

・あと多分若いバイトの子。

・で、役者志望。

だった。

 

しかし、のっけから

「お荷物をお預かりします。」

と手を差し出したのは

愛着を持って「爺や」と呼びたい

高齢の男性であった。

 

本日の担当執事N、

彼はアラサーと思われたが、

20代と思しき若い執事は

殆ど私の目には入らなかった。

更に言うと

イケメンも殆ど目に入らなかった。

 

夢に見た小林賢太郎ラーメンズ

みたいな執事はおらず概して予想は外れた。

しかしながら

店内の雰囲気は思いの外良く、

不思議と残念な気持ちにはならなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

おすすめの

英国式アフタヌーンティは

三段のハイ・スタンドに盛られた本格派。

アンナマリア 3500円なり。
(ヴィクトリアは4000円)


下段…サンドイッチまたはキッシュ
中断…スコーンとプリザーブ(二種)
上段…デザートAまたはB

 

リザーブとは果実の砂糖煮のこと。
(コンポートとジャムの間?)


ここではクリームなども含んでいた。

スコーンに付けて食べるためのものだ。

 

「プリザーブって何?」

ツレが小声で私に問う。


「あぁ。スコーンの添え物?

 なんか塗って食べるヤツよ。」


「添え物」て。

「塗るヤツ」て。

英国から10年ぶりにをした

お嬢様の回答がコレだ。

【プリザーブ=添え物】

 


気を取り直し…。

紅茶葉の種類は

目移りしてしまうほど

バラエティに富んでいる。

その説明書きに目を通す時間は

紅茶愛飲家の私には至福の時だった。

勿論、ポットサーブ。

ティーコゼーで保温もばっちりだ。

 

 

最初のオーダーは

期間限定の 

ダージリン・ファースト・フラッシュ

いわゆる「初摘み」の茶葉だ。

セカンド・フラッシュ(二番摘み)より

淡い色とすっきりした味。

心地好い渋みで喉の渇きが一掃された。

 

次のオーダーは

ヘーパイストスという茶葉。

グレープとマスカットのフレーバーティー

カップに注がれると同時に

座していた半個室に強い香りが充満した。


元来大メシ食らいの私には

一見「すくなっ」なアフタヌーンティも

物足りなさはさほど感じなかった。

ゆっくり優雅に口に運ぶウチに

満腹中枢を刺激したのだろうか。

 

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お屋敷内での写真撮影は禁止です。

 

アフタヌーンティーの他には

軽食も用意されている。

パスタ、シチュー、冷静スープ

それぞれのセット。

いずれもアフタヌーンティーと同額。

サラダとデザート付き。

もちろん

ポットサーブの紅茶葉も選べるのだから

悪くない。


いろいろな茶葉を愉しみたい紅茶派の

たまのプチ贅沢としては手が届きやすい。

 

ただ、

私は紅茶好きが過ぎてペースがはやい…。

執事が来る前に

ポットが空っぽになったことは

失礼であったかもしれない。


手酌(?)でカップを満たす私を見るなり、

少々慌てた様子の執事。

「すべて私達が…」

笑顔のニセお嬢様、

「お気遣いなく」

あやうく言いそうになってしまった。

執事プライドを傷つけるのはルール違反だ。

 

いや、待てよ…。

それはちょっと違うぞ。

 

10年前、身の回りのことを

何から何までやってもらう生活に

疑問を持ち家を出た私。

独りの生活を続ける中で

自炊もした。

洗濯もした。

腐ったものを食べると

決まって3時間後にゲロを吐く

という己の体内ルールも判明した。


海外旅行をすると

便秘が悪化することも知った。

行きに食べた機内食

旅を終え帰国してなお出てこないのだ。


況や紅茶をカップに注ぐことをや

そんな日常茶飯事、

今の私にはワケないことなのだ、執事よ。

成長した私をしかと見たまえ。


心の中でお嬢様のセリフを言ってみた。

 

そうこうしていると、

「気持ちだけでうれしい」

そんなイイ人風な考えが浮かんだりもして

ちょっとハッとしたのだった。

つまりこうだ。

居酒屋で先輩と食事をしたとしよう。

支払う気なんざないけれど、

既に会計をしている先輩の横で

財布を鞄から出してみたりする。


先輩「あぁ、もう気持ちだけで!」

アレと似ている。


ん?

イイ人風の「風」を

払拭しようと欲を出してみたら

どうやら失敗したようだ。

むしろ墓穴を掘ってしまっている。

まぁ、いいだろう。

私は貧乏な先輩にはたかったりしない。

それなりにイイ人なのだから。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


で。

10年前に英国に発ったお嬢様が

帰ってくる家って英国式なのね。

ちょっと設定が甘くないか?

あ、私ハーフなの?

お父様が英国紳士なの?

この平たい顔でハーフ?


留学先は英国じゃなくて

スペインとかにしてもらえぬ?

バルセロナでちょっと

逞しく成長して帰ったお嬢様じゃダメ?

 


つづく